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1.最も重要なこと   2.練習の構成要素  3.練習計画を立てる 4.注意すべきこと


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最も重要なこと


気持ちが大切 1.志(こころざし)は高く
何事にも真剣に取り組もうとする時、その先には「目標」があります。「目標」は「目的」と違って、ごく身近にあるものではなく、遠く富士山を望むように遠くにありながら、常に自分の視野の中にあるのです。その山頂は遠く険しいかもしれないけれど決して行けないことなはいのです。その山頂を目指そうとする気持ちが、苦しいことや辛いことを乗り越えるための動機となり、自分の足で歩んでいく力となるに違いありません。目指すところが高ければ高いほど苦難を伴うけれども、必ずやその気持ちが貴方を導いてくれるはずです。

2.考えられる選手になること。
 何のスポーツもそうですが、一つのものを身につけるには時間がかかるものなのです。しかも継続することが必要です。長距離の練習は「今日の練習」は「昨日の練習」があってこそ成り立ち、「今日の練習」は「明日の練習」につながるという一連の流れがあります。山から涌き出る源流は、いくつかの流れと合流し大きな流れへとつながり、やがて大河となっていくようにつながって行くのです。「今日」が「昨日」になる「明日」は「今日」になる。このことを見失うと流れ行く方向を見失います。
 厳しいインターバルトレーニングをやる。他の選手のできないようなハードトレーニングをやる。しかしそのことは独立して成り立たない。その練習が全体の流れの中でどういう意味をもつのか。どうつながって行くかを考えなければならないのです。今日はすごい「厳しい練習」をやった。」ということは、必ずしも「良い練習」をしたということではありません。そんな青春ドラマのように単純ではないのです。


3.今の自分を変えられる選手になること。
 よく「自分の最高記録は**分**秒です。」とか「**大会で優勝しました。」という言葉を聞きます。しかし、その選手がどんなすばらしい記録をもって、どんな実績をもっていようが、肝心なのは「今」です。いつまでも昔の「記念写真」を持ち歩き、人に見せるようでは、これからの進歩は望めません。 あくまでも基点は「今」であり、そこから「明日」に繋がっていくのです。
 人間、じっとしていても周囲の環境は否応無しに変化して流れて行きます。時間の流れは想像以上に速く激しいものです。その中で人は変化していきます。というより「変えられて」いきます。そして流れ着く先はわかりません。
 もし、「志」があるのであれば、自分自身の流れをつくり、時には周囲の流れに逆らいながらも進んで行かなければならないのです。「変えられる」のではなく「変えていく」。そうした意思がなければ「志」は遠く遠く離れていってしまいます。


4.所属にごまかされるな
 世間でいう強い学校、チームにいると、とかく誤った錯覚に陥ります。競技場にいけばその学校の名前やマークの入ったウエアを着て闊歩する。有名な学校やチームであれば人目をひいたりする。
 しかし、自分がその学校名やチームを離れた時、学校名やチーム名のないユニフォームを着るとき、すべての装飾を取り除いた裸の自分に自身が持てますか?


5.まずは指導者を理解すること
 練習計画を作ってくれてアドバイスを与えてくれる指導者がいる場合。まずはその指導者を理解する必要があります。練習計画は一貫したその指導者のイメージした流れがあり、根拠があるものです。また、その根底には指導者の人柄や物の考え方があるはずです。
 そういった背景を理解せずに「与えられたメニュー」をこなすだけの選手。「えさを与えられた選手」では強くなれるはずがありません。お母さんや奥さんが食事に野菜や肉などの栄養のバランスを考えてくれていても、ただ「おいしい」「まずい」だけの選手は強くなれるはずがありません。
メニューの善し悪しを語るには、指導者を理解し、メニューを理解すべきなのです。


6.日常生活すべてが練習につながる
 長い距離を走るといえども走っている時間はほぼ1〜2時間。24時間のうちの2時間。まあ朝練習を含めて約3時間としてもその他の21時間は何をしているのか。実はこの21時間こそ重要です。
 良い練習をするには、より良いコンディションで臨む必要があります。したがって、その日の練習メニューに合わせた食事内容や時間が決まります。また、練習後は翌日の練習を見据えて、疲労の回復や栄養補給に気を使います。その中には十分な睡眠なども含まれます。
 また、練習の疲労や内容によって、走るフォームのバランスが崩れたりします。人は「楽な方向」へ進む習性がありますから楽な姿勢や楽な動きになりがちです。こうしたことは2、3時間の練習では矯正できません。ましてや記録を測る時にはフォームなんて考えている余裕がありません。
 したがって、日常生活の中で矯正しなくては身につくはずがないのです。例えば正しいフォームを身につけるために「踵の高い」革靴をはいたり、腕を大きく振ったり、こうしたことが実は「走る以上に重要な練習」なのです。


7.本質を見つめる目を持つ
 最近ではTVで盛んにマラソン・駅伝の中継があります。私たちだけでなく走ることの苦手な人もついつい画面にかじりついてしまいます。
マラソンの5Kごとのラップをどう刻んだとか、**選手と**選手のデットヒートや駆け引き、勝負、記録。その興味はつきないものです。
 しかし、もしマラソン・長距離を志しているとしたらそれだけでは困ります。
ひとつのレースの中にあるドラマチックな場面は感動を与えてくれても、その舞台に上がるまでの経過や歴史を考えられなければ「視聴者」で終わりです。
 レースは、その選手の取り組みの表現のひとつです。そしてそのフォームや表情はその選手のものの考え方や心、精神状態の生き写しなのです。それぞれの選手がそれぞれの環境の中で独自の取り組みを経てスタートラインに立っている。その中である選手は故障と闘い、またある選手は走ること以外の面で苦悩を抱えていたりする。
そうした選手が、同じ場所で同じ時間に同じスタートラインに立つのです。そうしたことを考えながら選手を見なければ、そして自分もそのスタートラインにいつかは立つことを描きながら見なければ、本質は見えないと思います。


練習の構成要素

練習の構成要素
 さまざまな考え方があると思いますが、私の場合、練習プランを作成するにあたって4つの構成要素から策定しています。
それは@「長い距離を走ること」、A「速く走ること」、B「長く速く走ることと変化」、C「調整」 です。
 この要素をバランスよく配置することにより、一つの競技力にまとめようというものです。ここではそれぞれの要素についてお話しします。




1.長い距離を走ること(持久力)  
 長距離の基本は「長い距離を走ること」つまり「持久力」だと考えます。ずばり長く走り続けることができることが「完走」の絶対要素です。
長く走り続けるためには、もちろん長く走る練習が必要であり、2つの目的があります。
 それは「距離感を変えること」
レースの距離が短く感じることです。どんな状況でも走りきることができる感覚の養成です。
 もう一つは身体的に長い距離をはしれる「長距離選手の体をつくること」です。体中の毛細血管を発達させ、末端の神経まで効率よく血液を運ぶ経路を発達させること。俗に「足をつくる」と言ったりします。


 まず、「距離感を変える」ためにはどのような練習が必要か。毎日20K走りつづけるより、何日かに1度の割合で30Kや40Kを走ることが有効です。もちろんこれだけの距離をこなすのは大変です。しかし、毎日20K走ろうが、20K以上は未知の領域です。例えば手ごろな山に何度も登ったからといっても経験のないより高い山に挑戦する時には恐怖が伴います。それはその高さを登ったことがないからです。
 いきなりではなくてもより高い山、より高い山と経験を積みながら目標とする山に登るのです。そして、さらにそれ以上の高さを克服するのです。もちろん、これには時間も労力もかかります。しかし、そうすることで一度登った経験のある高さを余裕をもって克服できるのです。

 次に「長距離の体を作る」ことについてです。
本来、人間(特に日本人)には日常的に長く走り続けることはありません。つまり、ちょっとやそっと長く走ったからといっても、それは一時的で、すぐに日常の状態に戻ってしまうということです。
 それ故に「長距離選手の体」をつくるためには非常に長い時間と継続、根気がいるのです。 繰り返し繰り返し長い距離を走り、身体に刷り込んでいく必要があります。
ただし、長い距離を踏むことによってかなりの疲労とダメージを伴うことも忘れてはいけません。従って、長い距離を走って、再び長い距離を走るには回復に3〜4日程度の間隔をあける必要があります。この間の過ごし方については、ここでは触れませんが、自分の体験と研究により自分にあったローテーションを確立する必要があります。


 ここで、長く走る「持久力」を身体に刷り込むことについて述べておきます。
 長く走ることは当然ゆっくり走ることから始まりますが、長く走り続けるという日常的ではない活動で得た「持久力」というものは、一時的なものであり、放っておくと「蒸発」してしまうのです。
 一度長い距離を走って得た「持久力」をできるだけ自分の身体に留めておくために、長い距離を走った翌日に5000mなど短い距離で「締めて」おくことが有効です。長い距離を走り、体の毛細血管に刺激がはいったところに、短い距離で心臓に負荷を与えることで、一気に血液を送りこみます。。
 もちろん長く走ったあとなので、スピードは出ませんし、もがくような感覚になると思います。これを「スピードの出ないスピード練習」と呼びますが、かなり厳しい練習です。この「長い距離」と「締め」をセットで1つの「ポイント練習」とし、数日の疲労回復の時間をあけて、再び次の「ポイント練習」を繰り返す。この「ポイント練習」自体も距離を延ばすなど負荷を上げていきます。時間をかけて「ポイント練習」の繰り返しにより、長く走り続ける「持久力」が身体に馴染んでくるのです。


2.速く走ること(スピード)
 レースは、速くゴールテープを切ったものの勝ち。従って「速く走ること」は重要な要素です。
とかく速さは「先天的要素」が強いとも言われますが、だからと言って何もしないでいれば「先天的要素」も発現しません。トラック競技での短い距離のスピードがあったほうが、速いレース展開に対応できることは言うまでもありません。
 1984年のロサンゼルス五輪マラソンの時に日本代表の宗選手が、優勝した当時10000m世界記録保持者のカルロス・ロペス(ポルトガル)を称して、「他の選手がマラソンをしていたのにロペスだけはJOGだった。」というようにスピードがあるほうがどんなペースにも余裕で対応できるのです。
 しかし、レースが5000mや10000mならまだしも、ハーフマラソンや30K、そしてフルマラソンの場合は勝手が違います。
 例えばマラソンでは1000mを2分30秒で走るスピードより、35Kを走った後に2分50秒で走れるスピードが必要なのです。マラソンなどの長距離では1000mを2分30秒走るスピードがなくともラスト1000mを2分50秒で走ることのできるスピードを持っていれば十分に勝つことができるのです。
ただ単に「スピード」という言葉だけでは片付けられないということです。
 「用意ドン」で走り出すのもスピード、長い距離を走った後に絞り出すのもまた「スピード」であり、双方を念頭に置いたスピードを意識しなければなりません。

 正月に行われる箱根駅伝では、区間を走る選手たちの5000mや10000mの持ちタイムがテレビに表示されます。良く見ていると5000m13分台の持ちタイムを持っていても14分台の持ちタイムの選手のほうが上回ることがかなり多くあることに気づきます。
 持ちタイムは全く当てにならないとは言いませんが、決定的な要素とはならないと言えます。
こうした例をみると「スピード」をただ単にトラックでのスピードということでは収めることはできないと考えることが必要です。
 
 1000m2分30秒で走るには素質が必要かもしれませんが、2分50秒のスピードは練習すれば走れるようになります。この2分50秒を20Kや30Kを走った後に走る。このスピードが大事です。 こうしたスピードを養成するには、例えば5000mや10000mのラスト1000mや2000mを意識して頑張る。ではなくて5000mや10000mなどレースの距離をきっちり走ってから、「息が上がっている」状態のままさらに1000mや2000mをやる。絞りきった雑巾をさらに絞る練習が必要です。


3.長く速く走る(スピード持久力)と変化
「持久力」そして「スピード」、これら単独では競技力として成り立ちません。この2つの要素は互いに相反する側面を持っています。つまり、長く走るためには速さを抑えなければならないし、速く走れば長く走れない。

 しかしながら、この両者が手を結んでこそ「長く速く走る」ことができる。この2つの要素をひとつにまとめることが重要です。そのための条件として、「持久力」と「スピード」がそれぞれ十分に養成されていることが必要です。
 そして、そのことにもうひとつ付け加えるのならば「変化」です。
レースは前半が速かったり、遅かったり、後半にペースアップしたりさまざまなパターンがあります。このとき両極にある「持久力」と「スピード」をガスコンロの火力を調整するかのような調整が必要です。
いわゆる「切り替え」です。
基本的な「持久力」と「スピード」を養成し、それをひとつの「スピード持久力」としてまとめ、後は、その力を最高に発揮できる「炊き立てのお米」の状態にする「調整」が重要になってきます。

4.調整
 どんなに時間をかけて十分な練習を積んできても、スタートラインに立った時にそれを発揮できる状態でなければ意味がありません。
 選手の状態は、同じ練習をこなしてきても個人個人によって違いますし、天候などその場の状況によって大きく変わります。状況判断には経験と研究が必要です。
 また、選手は常に同じ状態ではありません。今日と明日とでも決して同じではありません。ましてや天候など外的状況も日々変化しています。先にお話した持ちタイム(ベストタイム)は、これまででベストな状態での記録であり、そうした状態を維持し続けることはできないのです。
 従って持ちタイムが自分より上の選手であっても、自分がその選手より良い状態であれば勝機は十分にあるのです。もちろん自分がベストな状態であれば、自己の記録を伸ばすことも可能となります。
 そうした状態にもっていくことが「調整」であり、その力が「調整力」ということになります。
 しかし、自分の状態をコントロールしながらスタートをベストな状態で迎えることはとても難しいことです。これまでの私の経験でも調子は良いと思ったのにレースでは思うように走れなかったり、走ってみないとわからない状態で思いがけずベスト記録が出たりすることは少なからずあります。
 瀬古選手を指導された中村清監督は「マラソンでは頂上にいられるのは3〜4日。この数日をスタートの時間にぴたりと合わせる。頂上アタックのタイミングは一瞬」と言われていました。また、メキシコオリンピックで銀メダルを取られた君原選手とお話しする機会を得た時に「目指したレースに自信をもって出たのに記録が思わしくなかったり、半ば記録は望めないと思って出たレースで予想しない好記録がでたりするする。マラソン・長距離はそんなことがあるから逆に面白い」という話しをされていたことが記憶に残っています。
 それほど難しいということなのです。
では、どうやってトレーニングしたら良いのでしょうか?

 まず必要なことは、自分の状況を理解できるようになることです。「汝、己を知れ」ということです。
人にはそれぞれ「調子の波」というものがあります。そして個人によってそれぞれ独特の流れをもっています。短い周期の波長をもっている選手がいれば長い周期の波長を持っている選手がいます。短い周期の波長であれば好不調の波が激しく、長い周期の波長であれば比較的好不調の波が少ないことが想定されます。
 この波長のピークをレースのスタートに合わせるために、自分の持っている波形を操作する必要があります。そのためにも自分の特徴を把握し、その時々でどの位置にいるかを理解しなければなりません。それ故に経験と研究が必要になるのです。

 先に「ポイント練習」というお話をしました。3〜4日間隔での「ポイント練習」の反復がしっかりと走力を身につけるための重要な練習となります。そして当然、質量ともに負荷の大きい練習です。この「ポイント練習」をこなすためには、その時のベストの状態で取り組むことですが大前提です。
 そこで、重要なのがポイント練習をつなぐ3〜4日の過ごし方なのです。ポイント練習での感覚が今一歩であれば短い距離の刺激を入れてみたり、スタミナ不足を感じたらゆっくり長めの距離入れてみたり、疲労が抜けないようであればもう1日開けてみたり、次のポイント練習に向けて最良の状態にするための工夫が必要です。ポイント練習とポイント練習の間をどう過ごすか。力を落とすことなく疲れをいかにとるか。休みすぎてもいけないし、やりすぎてもいけない。自分で見つける以外にありません。
その要素のひとつに、いかに生活するか(栄養、睡眠などをいかにとるか)。どう練習をつなぐかの繰り返しが「調整」のためのトレーニングにもなるのです。
 
 「ポイント練習」を繰り返していく過程で、レースの距離に近いロードレースやトラックレースを入れていきます。その走れ具合によって進捗状況を測るとともに課題を見つけます。その結果によって「ポイント練習」の中身も変わってきます。そして、レースの2〜3週間前から、レースの距離の2/3程度のトライアルを入れて行きます。そして、その状況を見て、調子が上がりすぎてると思ったら、ゆっくり長く走ったり、ウオーキングを入れるなどして調子の上昇を抑えます。逆に予想以上に調子が良くなければ、短い距離の刺激を入れて、上向きにします。こうしたことを繰り返し、微調整をします。ちょうどラジオの周波数を合わせるようにつまみを微調整するのです。
 気をつけたいのは、以前このやりかたで成功したからといって必ずしも同じやり方をする必要はありません。人間の身体の状態は常に同じことはありえません。外的条件についても同様です。過去の実績は参考にはなっても、常に使える教科書にはならないと覚えておくべきです。


えんぴつ経験や研究を積み重ねて自分自身で研究し、自分にあった方法を確立できる意志と探求心をもって、実践してこそ強い選手です。


練習計画をたてる

練習計画をつくる まずは大きな目標を設定することから始まります。社会人ランナーなら秋口から翌2月〜3月にかけてのロードレースに照準をあわせたりします、実業団・学生だったら春から夏のトラックシーズン、冬の駅伝・マラソンがおおきな目標になるでしょう。そうした節目から逆算した工程表が必要になります。
 先にいろいろ述べましたがひとつの完成品をつくるにはさまざまな要素があり、その組み合わせとバランスが大きなポイントになるのです。1軒の家を作るとき、まず完成予想図を作成し、そのための全体の設計図と工事計画、そして土台や建築、内装に係る細かい設計図と日程、そしてその日その日の工事計画といったような何段階にもわたる計画に基づき、予定の完成日を目指して作業を進めていくのです。
 時には天候やさまざまな原因により一部変更を余儀なくされることはあっても、その都度、若干の修正を加えながら、進めていくのです。この作業がそのまま練習計画を作るにあたっての考え方です。
その概要について、今後のヒントになれば幸いです。



1.完成図の作成
ペン まずは、完成図をイメージします。家を建てる時にはまず、こんな家を作ろうというイメージ作りから始まります。身近な例を言えば、いついつにどこに旅行しようということが決まれば、それに合わせた行程やスケジュールなどの準備すべき事項が決まってきます。
 私の場合は、2月から3月にかけてのロードレースに照準を合わせていました。時にはマラソンもこの時期に設定していました。そして、その時期における目標、記録などを描きます。
高校生であればインターハイに繋がる春のトラックレースと冬の駅伝といったところに山があることになります。大きな目標、つまり立派な完成図を策定するのであれば、年間いくつもの山をつくることはできません。それは、前にも述べたとおり競技力としてさまざまな要素を纏め上げるには時間がかかるのです。また、私のように年齢を重ねたランナーであれば、長期にわたり集中力を維持することができないのです。仕事の繁忙期や生活の年間リズムもその要因の一つです。
ただ、こうした完成図がなければ、当然計画も無目的なものになってしまう。思いつきの計画では、何も完成しないのです。


2.長期的計画(年間計画)の作成
ノートまずは長期計画から策定します。マラソンを目標にするならば1年間近い長期計画が必要な場合もあります。記録を狙う実業団・学生ランナーであれば走ることを中心に計画を策定できますが、仕事を持つ社会人であれば、仕事の繁忙期や家庭の状況も加味した計画をたてなければなりません。
 いろいろな部品を集めて、ひとつの形に組立てて、微調整して完成させる工程は、やはり長い期間を必要とし、おおまかなイメージ作りが必要です。
 

3.中期的計画(月間もしくは数ヶ月計画)の作成
ノート長期的なイメージができたら、今度は「スタミナ養成期」「スピード養成期」「スピード持久力養成期」「試合期」そしてそれぞれの「移行期」などの主目的に応じた期間の計画を立てます。
つまり、学校の定期試験のように1学期、2学期、3学期といった具合の計画です。この時期「中間テスト」や「期末テスト」があるように、レースを設定してその節目に合わせてトレーニングを組立てます。「スタミナ養成期」にはハーフマラソンなどの区切りのレースを設定して、段階を踏んで行くことになります。
 繰り返しになりますが、基本は「長く走る力」「スタミナ」の養成です。これには数ヶ月の時間を要します。次に「速く走る力」「スピード」です。そして「スタミナ」と「スピード」を融合し組み合わせた「スピード持久力」(「変化」と表現しましたが)です。「スタミナ」や「スピード」単独では「競技力」として成り立ちません。この2つのバランスが大事です。しかしながら、「スタミナ」と「スピード」は相反する。つまり「スタミナ」を養成するには「スピード」が鈍り、「スピード」のみを追えば「スタミナ」を失う結果になる。
 従って、それぞれをまったく独自に養成するのではなく、どちらに主眼を置くかということです。双方の力がついてこそ「スタミナ」「スピード」を同時にドッキングさせる(この場では割愛しますが、非常に高度な技術です。)ことはできないのです。
分かりやすくたとえれば、山頂を真っ白に雪化粧した「富士山」を思い浮かべてください。富士山の裾野の広大な美しい広がり、これこそ「スタミナ」。そして頂上付近の積もった雪すなわち「スピード」。裾野の大きな広がりがあってこそ、富士山の高さがある。この裾野の広がりが基本と考えるのです。
 こうしたイメージのもとにスタミナに主眼をおいた期間、スピードに主眼を置いた期間、それぞれを組み合わせる期間、そして試合といった流れ。もちろん移行期というものがその都度存在します。ただし、途中の評価や故障などのアクシデントのために1歩逆戻りしてスタミナを振り返る時期も出てきます。

4.短期的計画の作成
 私の場合は、週間計画とか3日先の計画とかは立てません。悪く言うとその日暮らしです。もちろんレースの間近には綿密に調整計画を立てます。
日々の計画はおおまかにポイントは「ここ」とかは決めていますが、その日その日の練習の状況によって決めて行きます。それは主体的状況のみならず仕事を含め、外的要因によってその日の目的が達成できない場合や疲労が予想以上に残って走れない場合があるのです。
 そうした場合は、ポイントを1日ずらしたりします。あくまでポイントは最良の状況でこなすことが最良の効果を得る条件だという考えです。もちろん、「調整」のところでも述べましたが、次のポイント練習までの調整が大きな要素ですが、生身の体、自分の体の声にも耳を傾けることも重要です。
 こうしたことから、練習はカレンダーを考慮にいれません。曜日関係なくポイント練習になったりするわけです。そうそう天候もよほどのことがない限り関係ありません。雨でも風でもレースはあるわけですから・・・。

5.練習は立体的に考える
絵練習計画を策定していく過程は、建築工事の過程によく似ています。まず完成図の作成、設計図の作成、その工程表の作成など、大きな完成図であればあるほど綿密で緻密なものが必要になります。
そして、実際にその実行について・・・。作業の過程では、設計図はただの図面としての役割ではなく、その図面を見る人の脳裏には常に完成までの工程が「立体的」にイメージされていなければなりません。楽譜が読めるだけでは曲はできません。頭の中で実際の音が流れていなければならないはずです。
それと同じように、練習計画とその実行過程にあっては、進捗状況を「立体的に把握する」必要があります。昨日はなにをやった。今日はなにをやった。明日はなにをやるかといったことの前に、今までの練習すべてを少し距離を離して、全体図として見ると、ポイント練習のひとつひとつが「練習記録という地図」のように見えてきて、ちょっと「濃い」とか「薄い」とか。「ムラがある」ということが見えてくる。
 そして、子供の積み木遊びのように「持久力」という積み木を積み重ね、土台を作りその上に「スピード」という積み木をピラミッド状に積み上げて行く、より高く積み上げるために「バランス」を調整していく。土台が小さすぎると高く積めない。こんなことが練習経過の中で見えてこないといけない
練習は、「立体的」に考え、見ないといけないのです。


注意すべきこと

えんぴつ具体的にどんな練習をするかについてはさまざまな研究がなされ、いろいろな工夫が加えられ、雑誌等でも紹介されているのでここでは触れません。ただ言えるのは「これをやれば良い」という誰にでも通用する特効薬はないこと。何が一番有効かは自分で見つけなければなりません。同じことをやるにしても考え方やそのやり方一つで大きく差が出るのです。ここでは、一般的に注意すべき点について私の考えを述べたいと思います。

1.JOGをばかにしてはいけない。
 朝練習でJOGをします。またポイントの中日にJOGをします。インターバルをJOGでつなぐ。JOGはさまざまな場面で実施されますが、これこそが最も重要な練習だと思います。野球で言えばキャッチボールや素振り、これをしっかりできない選手はプロ野球選手にはなれません。
 休養のJOGと指示をうけると、野外走に出たり、トラックをゆっくり走ったりします。しかし、その多くは体だけではなく気持ちもすっかり休養し、リラックスという名のだらけた練習になる危険性があります。
 JOGは練習の中でも最も時間を費やすもの、従って「くせ」もこの中でできる。その多くが「悪癖」です。その選手のフォームはこの中で形成されるのです。
JOGは練習の中で最も余裕のある状態であり、最も遅い走る動作です。従って、腕振りや上体の動き、足の運びを客観的にイメージできる。短距離選手のJOGをよく見ますが実に腰高です。また、野球のピッチャーが、シーズンオフにゆっくり動作を確認しながらキャッチボールをする。こうしたイメージ作りから体への刷り込みがJOGでなされると考えるのです。
こうしたことを無視して、「リラックス」という名のだらだらJOGの選手に強い選手はいないし、最も神経を使う重要な練習であることを忘れてはならないのです。


2.インターバルトレーニングの落とし穴
 私自身は一般的なインターバルトレーニングはほとんどやりませんが、調整段階の刺激として近い練習をやるときがあります。
中・高生を中心としてインターバルトレーニングは練習方法の中核をなしていることが多いようです。
 場所と時間を有効に使う合理的な練習方法として位置付けられているのだとと思います。
たとえば400mを200mJOGでつないで400mを15本繰り返す。ただこのやり方によってかなり意味合いがちがってきます。
細かくは言及しませんが、陥りやすい場面について触れておくこととします。
疾走する部分とリカバリーの部分から成り立っていますが、そのポイントは何秒で何本できたかということに主眼がおかれることが多いと思いますが、実は400mを30本やろうが40本やろうが、一番のポイントはリカバリーのJOGにあるのではないかと考えています。
設定タイムで疾走して、JOGでつなぐ、中・高校生の多くはこの間にできるだけリカバリーを図り、次にそなえるという意識だと思いますが、この間のJOGが腕をぶらぶらし、下を向いて、歩幅を縮め、歩行程度のスピードで、「待つ」ことが多いのに気がつきます。
しかし、実はこの時のフォームこそ、集団から離れ、気持ちの切れた状態でのフォームになるのです。これなら歩いたほうがましと思うのです。
 レースではいつ相手がスパートを掛けてくるかわかりません。いつもその準備をし、スパートに対抗できるフォームでいることが必要です。苦しい時にしっかりしたフォームを身につける練習をせずにわざわざ追いこんで、悪いフォームを身につける「間違ったインターバル」トレーニングが滑稽にすら思えてくるのです。


3.力と動き

 昨今では、ほとんどの長距離選手がウエイト・トレーニングを実施していると思います。高校ではそのための施設が充実したところが多く、近所のスポーツクラブを利用する人も多いようです。
 ここで、注意してほしいのは、どんな目的で実施するのかを明確に意識することです。上半身を強化するのであれば正しいフォームを維持するための支持系筋力の強化、後半の腕振りを強化するための筋力強化などです。
 また、何Kg持ち上げたかが問題ではなく、必要な筋力を得られたかどうか正しく評価することが必要でしょう。
さらに筋力つまり力という要素だけでは走ることに繋がりません。ウエイトリフティングやボディビルの選手ではないのですから、動きを維持できる筋力が必要なのです。つまり力と正しい動き、そしてその持続ができることが最大目標です。
 そのために専門的知識を勉強しなければなりません。ただメニューとしてのウエイトトレーニングではかえって不必要な練習にもなりかねないのです。


4.意識と自覚
 何事も意識しなければ身につきません。受験勉強でも覚えようと思って単語を覚えなければ覚えられません。かなり一生懸命覚えた英単語でさえ、受験が終わりしばらくすると、ほとんどが忘れ去られているのです。
 インターバルトレーニングのメニューを与えられても、どんな目的なのか、どこにポイントがあるのか。クロスカントリーをやるにしても、厳しい登りで腕を大きく振るとか、もも上げをして脚力強化をはかるとか、課題を意識し、自覚しなければ身につかないのです。従って、休養目的に疲れをとろうとかいうことも立派な目的になるのです。
こう考えると練習には、目的のない練習はあり得ないし、もしあったとしたら時間の無駄としかいいようがありません。


5.走るだけが練習じゃない
 月間何百キロも走る。でも実際走る時間は1日2〜3時間、残りの22時間が大事だとお話しました。最高の練習をするための最高のコンディション作り、これが最重要です。走ったあとのアフターケア、食事、睡眠など、そして走ることに繋がる補強的なトレーニング。
 こうしたことは日々日常で「練習時間を集中してやった」というでけでは不足なのです。
もう一つの要素として「心」があります。故障して練習できない、悲しいことや辛いことがあって練習できない。よくあることです。こうしたときに自分を見つめなおすことはとても良い練習なのです。苦しいと思っていた練習もいざ走れなくなったりすると「走りたくなる」。こんな自分を発見できたら、それだけで成長できたと考えて良いのではないでしょうか。走っている時の心の葛藤より走れないでいる時の心の葛藤の方がより負荷が大きいかわりに、乗り越えた時、もうひとまわり成長した自分がそこに居るはずです。

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